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少し前のことだ。夏の終わり、ダソルは旦那に呼ばれた。なんの用かは察しがついていた。
年を越すころにはダソルももう十八だ。いつまでもここにはいられない。
旦那の牧場は広い。雇人も多く、裕福で広く知られているのでよく家畜小屋に捨て子が置かれている。
旦那はダソルやユンだけでなく、こうして置いていかれた身寄りのない子どもを引き取り、育て、教育し、仕事を与えてくれる。
だが、一生、全員の面倒を見るわけにはいかず、十六になると皆、独り立ちをしていくのだ。
十六のときも旦那に呼ばれた。独り立ちをする年ごろになったからだ。ところがダソルは暇を出されなかった。もう少し、この家で働いて欲しいというのだ。
ダソルにとってはこの上ない話だ。ユンが気がかりで仕方ない。他所へ出るなど、とても考えられなかった。それは旦那も同じ考えだった。
ユンは生来、人に心を開くことが不得手で世話をする大人は手を焼いていた。昼夜問わず泣き通しだった。
そんなユンを、ダソルは幼いころからずっと気にかけていた。自分にもこんな頃があったのかな。と、赤ん坊に興味深々だった。
なんで、ずっと泣いているのかな。
哀しいのかな。淋しいのかな。痛いのかな。苦しいのかな。
僕もずっと泣いていたのかな。
その時、誰かが寄り添ってくれたのかな。
ユンを見ていると、ダソルは幼いながらに身を引き裂かれそうになるほど痛ましく思った。
この小さな小さなユンがすやすや眠れるように、そして目が覚めた時には笑顔になれるように、寄り添っていたいと思うようになった。
ダソルは学校や牧場の手伝いの時間を除いて、できるだけユンのそばにいることにした。
ユンがあまりにも手に負えないものだから、女中たちはしめたとばかりにダソルに世話を押し付ける。それが功を奏す。
ユンはダソルと目を合わせるようになり、そのうち笑顔を見せるようになっていった。
そして、歩きはじめたころには金魚のフンのようにダソルについてまわる。
ダソルと一緒にいると、よく話しよく笑う。
手に余っていたユンがやっと落ち着いてきたと、旦那もすっかり胸を撫で下ろし、その頃からすでにダソルを頼りにするようになった。
二人はいつも一緒だった。本当の兄弟のようだった。
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