Ⅰ 三日月の夜に

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そうなんだよねぇ…… 目の前の俺様が言う通り、ほんの数十分前、この店の表に貼ってあったアルバイト募集の文字を見て思いきって飛び込んだんだよね。 履歴書もないのに。 なんせ、こっちは切羽詰まってるし。 というのも、先月にあっけなく派遣切りされ、しかもルームシェアをしていた友達は いきなり、デキ婚でつわりも酷く引っ越しもままならない状態なので、旦那さんになる人が側に居ることになって…… 友達は自分達が直ぐにでも部屋を探すからそれまでシェアのままで良いって、言ってくれてたけど。 さすがに私もそれはそれで気を使う。 だから、仕方なく私が部屋を出ることにしたんだけど実家には簡単に帰れる距離じゃないし… 新しい職場と住む場所を同時に探していたところ、たまたま店先に貼ってあったバイト募集の貼り紙を見て後先考えず飛び込んだと言う訳。 それを見透かすようにさっきからゆづ兄と呼ばれる人が追い討ちを掛けてくる。 「実際、仕事も住むところも、困ってるんでしょ?」 「…はい。」 事実過ぎて頷くしかない。 「じゃあ、決まりって事で、良いよね?部屋もいつでも使えるようにしてあるから。直ぐにでも荷物、持ってきて。そうだ!引っ越し、僕たちでやってあげようか。引っ越し費用浮くし。ねっ?」 と、一気に捲し立てる威圧感王子ことゆづ兄。     
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