雨の境界線

私は雨が嫌いだ。
母と父が他人になった時も母がこの世を去った時も、私が悲しみを大きく感じた時、窓の外は淀んでいた。にわか雨ではない車軸の雨だった。
「空で雨が降っているのはね、神様が泣いているんだよ」
幼い頃母が私に教えて来れた。
「お母さん、神様は悲しいの？」
「涙が出るときはね、悲しいからだけじゃないんだよ」
ふちに入ってしまった母とは違う表情を思い出した。私はまた朝目が覚める。雨はまだ止まない。義務感だけで足を動かし、学校へ体を運ぶ。心はまだ雨の中にいる。
「本日は境界線の話をします」
毎日、毎日、飽きることなく授業が行われる。その中の一つなんて大したものでもないはずなのに私はそれに惹かれた。
「境界線とは一つのものと一つのものの間にある境目を線状にしたものです。馴染みのあるものだと地平線、水平線、ボーダーラインなどこれらすべて境界線のことです」
大半の生徒は興味なさそうに時間を過ごしている。
「雨に境界線はありますか」
よく話す男の子が訊いた。

私は授業を終え、学校を終え、ゆっくりとでも着実に家へ向かっていた。
ピロロン。
父からだった。
今日は雨だ。また何か起こるのだろうか。
「今から会えないか。大切な話がある」
私にそれを断る理由はなかった。