雨の境界線

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私は慣れないオシャレなカフェで父とあった。 「今日は雨なのに悪いな」 「いや、別に」 私は時を刻むようにコップに口をつける。 「俺、再婚するんだ。だから……」 「勝手にして」 雨の中の私が叫んだ。父の会話の途中で私がこんないことをしたのは初めてだった。 「何を怒っているんだ?」 父がここまでわかってないとは思っていなかった。母と離婚した時も、母が死んだ時も大して何も思わなかったのだろう。 「お母さんが死んだ時、なんで何もして来れなかったの?」 母が死んだのはつい先日のことで離婚したのは一年前のことだ。 「お前まさか、聞いてないのか」 「えっ?」 私はまた父の発言に驚いた。 「そうか。お前のお母さんはな、病気だったんだよ」 そんなことは知っている。 「それで俺たちは離婚した。愛し合っていたからだ」 急に話が見えなくなった。 「俺たちの愛の結晶をしっかりと育てるためお前のお母さんが決めたんだ」 『私が死ぬまでに私の大切な事を全部あの子に教えます。だからあなたはあの子の新しい母親を見つけてください』 「だから…今日……迎えにきた」 父の表情は雨の中の私に瓜二つだ。私の車軸が霧雨にわかった。雨の中に倒れこんでいた私が立ち上がった気がした。 「お父さんは…」 言葉が喉に詰まる。でも精一杯それを外へ出した。水をよく吸ったスポンジを握ったかのように。 「お父さんはお母さのこと愛していた?」 「お父さんはお母さんが死んだ時悲しいと思った?」 「お父さんは、お父さんは、お父…さんは」 室内に雨は降っていないのに私の瞳は濡れていた。そして溢れていた。外の雨より強く。 「俺が悪かった」 父は私を抱きしめた。久しぶりに人の温かさを感じた。 「今から新しいお母さんに会うけど大丈夫か?あと向こうにもお前と同じ歳の子がいるけど」 もう答えは出ている。 「大丈夫だよ」 私たちはそのあと新しい家族にあった。 「雨にも境界線はあります。それは人は感じることは難しいかもしれません。ですが雨は必ず上がります。人が雨の境界線を越えさえすれば」 よく話す男の子と父の言葉が重なった。 「これからは俺たちが支えるよ」 外の雨は上がっていた。室内に雨は関係ない。でも私の瞳はまた別の何かで濡れていた。 心はもう虹を見ていた。 こんなにも空が綺麗なことに気がつけていなかった。
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