落ちた雛鳥

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落ちた雛鳥

 空を飛びたい、と思ったことは一度もなかった。ただ漠然と、親がそうであるように、自分も自然と空を飛ぶのだろうと思っていた。それは自分の願いではなく、本能的に感じていたことだ。  それなのに……  渡り鳥として生まれ、周りのみんなと一緒に暖かい場所へ飛んでいくことは理解していた。そのためにも、大きな体をつくらなければならない。雛鳥はみんな、必死になって親鳥にえさを求める。  僕の兄や姉たちも、親がえさを持ってくるたびに、口を大きく開けていた。けれど、僕はいつも巣の端でおとなしくしていた。なぜかと問われても説明はできない。なんとなく、必死にえさを求める行為を恥ずかしく思っていたのかもしれない。  そういうわけで必然的に、兄や姉たちと比べて、体格に差がでてきた。一羽、また一羽と、どんどん巣立っていく。そして、僕だけが巣に残った。  焦った。このまま置いていかれたらどうしよう。兄や姉、親は僕を励ましてくれた。しかし、いつまでも飛べずにいたら、失望されてしまうのではないかと不安だった。  だからある日、僕は跳んだ。  そして、落下してしまった。体が充分に成長できていなかった。しかも、落ちたところが草むらで、みんなに気づいてもらえない。落ちた衝撃で怪我をし、声もそれほど出ず、助けも呼べない。  僕がいなくなったことは、家族が気づいているだろう。しかし、いつまでも見つからなければ、一羽の鳥と群れ全体、どちらを優先するかは明らかだ。  そのうち、みんなは飛び去っていった。  身動きできず、声も出ず、ここで死んでいくのか。鳥に生まれたのに、飛ぶ楽しみを味わうことなく、死んでいくのか。そう思うと、悲しみと寂しさがあふれ出した。  涙を流しながら、僕はみんなが飛んでいった空を見上げた。
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