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「足を狙ってただろ? 動けなくするつもりだ」
俺が脚を一本や二本なくしたところで、[研究所]としては一向にかまわないのだ。逃げられさえしなければ。
[研究所]にとって、俺たち二人に脱走されることは、俺たちに死なれることと同じぐらいダメージがでかい。
山を切り開いて造られた[研究所]の敷地は、丘あり谷あり小川あり、の起伏に富んだ地形だ。俺たちは、すぐ目の前まで迫ってきた急斜面に頭から飛び込み、無人戦車からの射線をぎりぎりでかわした。背の低い草に覆われた柔らかい地面をごろごろと転がり落ちる。行きついたところは塀だった。
外界と[研究所]とを隔てる高さ五メートルの塀。これさえ越えれば、自由だ。
マルクは塀を見上げ、深呼吸した。
塀から少し距離をとり、いきなり走り出した。
マルクは身長二メートル近い大男だ。筋骨隆々を絵に描いたような見事な肉体と端正な顔立ちはまるで古代ローマの彫像のようだ。運動能力にも優れ、アスリート学級でも常にトップの成績を収めていた。
しかし。
軽く助走をつけただけのワンジャンプで五メートルの塀のてっぺんにまで飛びつけるのは。
単なる運動神経の問題ではない。
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