<第9章> 思えば思わるる

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 それはわかってる。今までも自分の本心に気づいていたはずだ。だが『綾香が取られちゃう』という沙知の言葉で、その気持ちに間違いはないと確信した。 「でも我孫子」 「何?」  沙知はまだ怒ってる。 「レース前に告白するなんて、めちゃ試合に悪影響じゃないか」  沙知がふっと笑うのが聞こえた。 「それは大丈夫。私はマネージャーだよ。私を信じろパートツーだ」  何を言ってるのかコイツは。大事な最後のところでおちゃらけるな。 「わかった。我孫子を信じるよ」 「本当に?」  沙知の声が、急に明るくなった。 「どこに行けばいい?」 「綾香は第三区だから、地下鉄の鞍馬口駅の近く。十一時ちょっと前くらいのスタートになると思う」 「どうやって行ったらいいんだ?」 「そんなのはスマホで調べたら?」  この台詞、聞いたことがある。デジャヴだ。確か綾香に北アルプスへの行き方を聞いた時だった。 「高校駅伝の公式サイトにコース図があるから、それ見て来たらいいよ」 「あ、ありがとう」  案外沙知は優しかった。 「絶対に綾香が走り出す前に来てよ。加賀屋の家からなら、一時間半くらいで来れる。今すぐ出たら、間に合うから」  時計に目をやると、九時過ぎ。確かに間に合う。 「よし、わかった」 「待ってる」  翔は「ありがとう」と言って電話を切ると、ばたばたと出かける準備をした。 ◇◆◇     
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