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それはわかってる。今までも自分の本心に気づいていたはずだ。だが『綾香が取られちゃう』という沙知の言葉で、その気持ちに間違いはないと確信した。
「でも我孫子」
「何?」
沙知はまだ怒ってる。
「レース前に告白するなんて、めちゃ試合に悪影響じゃないか」
沙知がふっと笑うのが聞こえた。
「それは大丈夫。私はマネージャーだよ。私を信じろパートツーだ」
何を言ってるのかコイツは。大事な最後のところでおちゃらけるな。
「わかった。我孫子を信じるよ」
「本当に?」
沙知の声が、急に明るくなった。
「どこに行けばいい?」
「綾香は第三区だから、地下鉄の鞍馬口駅の近く。十一時ちょっと前くらいのスタートになると思う」
「どうやって行ったらいいんだ?」
「そんなのはスマホで調べたら?」
この台詞、聞いたことがある。デジャヴだ。確か綾香に北アルプスへの行き方を聞いた時だった。
「高校駅伝の公式サイトにコース図があるから、それ見て来たらいいよ」
「あ、ありがとう」
案外沙知は優しかった。
「絶対に綾香が走り出す前に来てよ。加賀屋の家からなら、一時間半くらいで来れる。今すぐ出たら、間に合うから」
時計に目をやると、九時過ぎ。確かに間に合う。
「よし、わかった」
「待ってる」
翔は「ありがとう」と言って電話を切ると、ばたばたと出かける準備をした。
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