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最寄駅に早足で歩きながら、姫松に電話をかけた。今日のデートに行けなくなったと言うと、姫松はたいそう怒り出した。当たり前だ。
「なぜ?」
語気荒く、詰めるように姫松が言った。
「ホントにごめん。駅伝の応援に、京都まで行くことになった。ウチの高校が出るんだ」
せめて嘘はつかずに、誠意を持って謝ろうと考えた。
「駅伝?それがそんなに大事なの?」
「そうなんだ」
「私よりも?」
その言葉は、心が痛む。
「うん。ごめん。謝って許されることではないとわかってる」
「本当にそうだわ。デートをキャンセルされるなんて、こんな恥ずかしいことは今までなかった」
え?恥ずかしい?そっちなのか?翔は良心の呵責が少し和らいだ気がした。
「この埋め合わせは必ずする。どうしたらいい?」
しばらく黙って考える姫松。
「じゃあ、二つお願いしていい?」
ふ、二つ?こちらが悪いんだから、まあ仕方がない。
「いいよ、何?」
「一つは誕生日プレゼント。また来週に買ってくれる?」
なるほど、だから誕生日の今日にデートしようと言ったのか。
「今度はアクセサリーを買ってもらうわ」
「ああ、わかった」
またもギターが遠のいた。
「もう一つは、私の家庭事情は死ぬまで誰にも言わないって、もう一度誓って欲しい」
「それは大丈夫だ。こんなことが無くても、秘密は守る」
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