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「早く言え!」
後ろから沙知が、背中を突く。
「わかったから、待てよ」
荒れた息を落ち着かせないと。
「間に合わなくなるよ!」
沙知が急かした。綾香は半身になって、後方を見ている。
翔は大きく息を吸い込んだ。両手を口の横に当てて叫ぶ。
「神ノ木!」
綾香は声に気づいてこちらを振り返ると、目を大きく見開いて驚いた。
「姫松さんとのデートは?」
「キャンセルした」
「なんで?」
綾香は目を白黒させている。
「それは…」
言いよどむ翔の背中を手のひらでバンバン叩きながら、沙知は耳元で囁く。
「早よ、言わんかい!」
焦らせるなよ。
翔はもう一度息を大きく吸い込んだ。
「それは、神ノ木が好きだからだ!」
綾香が目を丸くして、ぽかんと口を開けている。そしてすぐに、満面の笑みをを浮かべた。
口元が「ありがとう」と言ってるように見える。周りの見物人も、何人かが翔の言葉に気づいてこちらを振り返る。
「神ノ木にがんばって欲しいから、応援に来た!」
その言葉を聞いて、綾香は急に表情が引き締まった。両手で頬をはたき、勝負師のような顔つきになる。
「綾香、来たよ!」
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