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しかし現実は、校内で何度か彼女を見かけ、苗字が姫松だとわかっただけで、高校生活の最初の一年間を過ごしてしまった。クラスが違う姫松とは言葉を交わす機会もなく、しかし姿を見かけるたびに胸が高鳴り、彼女の顔や美しい立ち居振る舞いを見るだけで胸の奥がむず痒くなるような感覚に見舞われた。
間違いなく、紛れもなく、文句なく、それは恋だ。
翔も何もせずに一年を過ごしたのではない。彼女を見かけると何気なく目の前を横切り自分の姿を意識させたり、遠くから彼女に「好きです」という念を送って気持ちが通じるように祈ってみたり。
《自分にできること》は何度となくやってきたつもりだ。ところが彼女から告白されることはなく、声をかけられることも、微笑みかけられることもなかった。
翔の方から声をかけたり、告白はしなかったのかって?そんな行動をする勇気はまったくわかない。
それは《自分にできること》の範疇に入ってはいない。
それでも翔は諦めてはいなかった。
「果報は寝て待て」と言うではないか。
きっといつの日か、彼女と仲良くなり、付き合う日が来るに違いない。
◇◆◇
二年生になって新学期が始まり、クラス発表の張り紙を見た時、翔は激しく胸が高まり、膝が震えた。そう、姫松と同じクラスになったのだ。
クラス分けの張り紙で初めて知った「姫松 麗」というフルネームは、やはり美しいお嬢様の雰囲気に溢れていると一人感心した。
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