<第3章> 蟻の思いも天に届く

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<第3章> 蟻の思いも天に届く

3-1 ◇◆◇  翌朝、翔は洗面所の鏡の前で、いつもよりも長い時間を過ごしていた。昨日美容室でワックスを買った。初めて使うべとべとした物体に悪戦苦闘する翔だった。 綾香のアドバイスでネットでヘアセットのやり方を調べたが、なかなかうまくいかない。 『どうやるんだったっけ?』と試行錯誤を繰り返す。  ようやく昨日美容師さんがセットしてくれた髪型に近い状態になった。まだ少し違う気がするが、それなりに見れるようになったはずだ。いつもは一分も鏡の前にいない翔だが、今日は優に十分は超えている。  世のナルシスト達は、毎日こんな時間を過ごしているのだろうか? 明日からも毎朝これを続けられるのか、少し不安になる翔だった。 ◇◆◇  いつものように月曜日の朝はだるい。しかし今日の翔はできるだけ背筋を伸ばし、表情筋にも力を入れ、少し気合を入れて教室の後ろ側の扉を開いた。  髪型を変えたことを、誰かが気付くだろうか。気付いて欲しいという思いと、恥ずかしくて誰にも気付かれたくない思いが何度も交錯する。     
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