人生初の女装

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これはオトリ(・・・)捜査だ――と、格好付けてみたものの、実際には大学生が粋がったナンチャッテ行為だ。 昨日の昼に回覧板がきて、その内容が不審者への注意喚起(被害者は20代女性らしい)だったと友人達へ話した。きっかけが正義感か好奇心かも怪しい発案から、ジャンケンで負けた俺が、女装して人気(ひとけ)の無い夜道を歩く。 この辺は割と街頭も少なくて、なるほど不審者からすれば好条件が揃っているように感じられた。 足元はヒールが高い(といっても5センチも無いらしい)靴で、全体的には女子大生風。見た目重視で動きやすさを疎かにした履き慣れなさ、服の違和感から慎重に歩いていると、ピロンとスマホが着信を知らせる。 アプリで作った、複数人が同時に利用できるチャットルームが更新された通知だった。 『こちら異常なし』 同じように場所を決めて夜道に潜んでいる複数の友人から、異常なしを伝えるチャットが更新されていく。 俺も返事を……と思った時、後ろから足音が近付くことに気付いた。 自然と強張る身体。 女性は毎晩、こんな思いをしているのだろうか。 「ねえ、そこのお姉さん」 警戒しつつ、声を出さずに振り返る。 「そうそう、あなたですよーお姉さん」 「ぁ……あっえーと、私ですか?」 一瞬地声で答えそうになって、慌てて裏声で話す。振り返った先には男が立っていたが、この暗さでは表情までは読めなかった。 男が一歩、また一歩と少しずつ近付いてくる。その慎重さは警戒されていることを配慮してか、それともよからぬ事を考えている不審者だからか――。 「って、あれ?」 「こんばんは、ん、どうかしました?」 「あ、いやなんでも」 よく見たらそれは高校時代の友人だった! どうやら女装には気付いていないようで、俺も初対面を気取るが、思わず驚いてしまった。こんな時でなければ、懐かしい思い出話に花を咲かせたいところだ。 「俺、田中太郎。こんな夜中に女性がひとり、って心細くない?」 「そうですね、でも毎日だから~」
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