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隣に寝転ぶ後妻の視線
人を斬ったことがある。
ぽつりとそういって権定は盃を煽った。羽織と袴を脱いだ長着で膳を引き寄せた格好は、どこからみてもお武家の当主そのものだった。
(いいえ。この人は高久家の当主その人だ)
今年三十九になる。鋭さと華やかさが同居する美しい見た目をしており、日頃から剣の稽古を欠かさない真面目さで、前妻を娶るまで遊びらしい遊びもしたことがなかったと義母からは聞かされている。
「聞いていましたか」
「はい。しっかりと」
「では誰をとか、どうしてとか、聞かないのか」
「聞きたいことがたくさんあって、喉につかえてしまいました」
「そうだった。可愛の喉はとても細いんだった」
祝言の晩に首を締められた。まだ十日ほど前のことで、その時の痣がだんだん下がってきて今は鎖骨あたりにある。
「あの時へし折ってしまわなくてよかった。お前がいなければ私は毎晩凍えて眠れないだろうから」
この離れの座敷牢は、堅牢な作りで見た目は立派な住まいであるが、大きな一間は天井を高くして真ん中に木組みの牢をしつらえてある。ふすまを閉め切った無効に簾もかけてあるので、保温はできそうなのになぜか冷えるのだ。
「不思議に思わないんだろうな。君は」
まるで独り言なので黙っていると権定は猪口を置く。
「なんだって受け入れてしまう。受け入れてくれる。だから君を迎えた」
まずもって選べる立場ではなかったがと笑う権定の横顔は綺麗だと思う。
「さあ、こっちに来てくれ」
そういうと、権定は敷いた布団に寝転がる。
今日はあんまり痛くないといいなと思いながら可愛はその隣に寝転んだ。
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