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こんなに静かな気持ちで眠れたのは久しぶりだった。妻を斬ってから、いろいろと忙しくしていたからかもしれない。
うっすら目をあけると、途端に息苦しくなった。何かと思い顔をあげると、自分の胸の上に女の白い足が乗っている。
可愛本人がいうとおり、寝相はよくないのだろう。
何度も褥を共にし、その重みもまた心地よくなってきたころ。可愛は薄暗い朝日がゆっくりと照らす障子を眺めながらぽつりと言った。
「私は何をすればいいんでしょうか」
「何とは」
「ここにいていいなら、私は家のお仕事が何もできません。お武家の妻女であれば、なにやらやるべきことがあるように思うのです」
およそ、武家の妻らしいことはさせていない。夜帰ってきた権定とともに眠るくらいだ。彼女には何もさせていない。
子作りですら。
「ややこを、授かったらまた変わるでしょうか?」
「ややこ?」
抱いていない女になぜ子供ができるのかわからず首をかしげると、可愛はどうもそこらへんの知識が乏しいようだった。
「男女がひとつの布団で眠ればややこを授かると」
「……それは」
「祖母から聞きました」
「……ああ。そうだな」
ここで本当のことを教えてしまうのも、つまらない気がした。それに、子ができたらこの馬鹿げたとても楽しいことをやめなければならないことはわかっていたのだ。
「ややこができたらな」
そう。できたらの話だ。このまま可愛に子種をやらなければいいだけのことである。幸い権定は今、そういうことをしたくならない。
丁度良かったのだ。
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