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「帰りましょう。ね。帰りましょう」
可愛がそういって泣きじゃくる権定の背中を撫でながら帰ってくると権定の父母は驚いていたがそれ以上なにも言うことはなかった。
もとはといえば権定の父母が可愛の実家に連絡したのが始まりなのだ。そうすることで彼女を自由にしてやるつもりだった。
「旦那さま、つきましたよ。さ、お召し物を替えましょう。お義母さま、権定さまに温かいお食事を用意してもよろしいでしょうか」
「あ、え、ええ」
「だめだ。可愛はここにいろ」
「かしこまりました」
なにやら嬉しそうな可愛に権定がしがみついている。
「お義母さま」
「用意しましょう。可愛さんは権定とともにおいでなさい」
台所で食事の用意をしている母のもとへ父が飛んできた。権定と可愛が仲睦まじくしているといって座り込む。
「旦那さま。権定も可愛さんも、最初から仲睦まじい夫婦でしたよ」
そう。最初から、二人は仲睦まじい夫婦だったのだ。
閨の座敷牢は最初から錠前もついていなかったのは明らかだった。だから可愛は出入り自由なところにいたのだ。
可愛は権定の頼みを聞いてそこにいただけである。
「可愛は権定を大事にしてますし、権定も可愛を大事にしていますよ」
「そう、だったな」
座敷牢は取り壊されることなく、可愛と権定は夜そこで過ごす。二人で過ごす座敷牢は前よりずっと暖かそうだった。
ややこができるのはその半年後。そしてやっと座敷牢は取り壊され、もっと居心地の良い座敷になって二人の居場所になった。
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