行動理念

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行動理念

妻を迎えることになったのは権定が三十になったときだった。しかし父母が嫡男の妻はかくあるべきと選びに選びぬいたせいでなかなか話はすすまなかった。見合いの話が持ち込まれたのは母方の縁者からで、それは権定が出仕する藩での付き合いもあったので、そこからはすんなりと話はすすんでいった。そして嫁を取った権定はそれなりに仕事も順調だった。 だから嫁を取ってよかったなと、そう思っていたのだ。 これまで女を大事にしたことなんてなかった。そう、権定の暮らす世界にそんなものはなかったのだ。馴染みの女がいたって、それは恋愛などではない。恋だの愛だのは権定にはとうとうわからないままだったが、しかし妻がいるというだけで任される仕事も変わり、物事はいいように進んでいたように思えた。 そんな中で突然の出来事だった。昼下がり、権定が出先から戻ると母が飛び出してきた。血相を変えてとはこういうことなのだなと思わせるその顔を見て思う。 「いかがなされた。母上」 「権定。そのように悠長にしてはおられません。あの女、わたくしたちを謀っていたのです」 「はあ」 「間男がいたのよ!あの女は逃げたの!」 後から思えばその瞬間決意していたのだろうと思う。権定の名を汚したあの女は、『敵』となったのだ。昨晩抱いた女の顔を思い出す。 (あのときも、熱心にこちらを見返していたのに)
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