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勝手にあんなことをして、あの二人は死にたかったに違いない。
湯船に浸かりため息をついた。
(面倒な)
次の妻を閉じ込めてしまおうと思いついたのは、知り合いが鈴虫を趣味にしていてお気に入りをかごに入れて縁側に置いていたのを見たときだった。アレをやればどこかで男と知り合うこともないだろうし、幸い権定の家は母も元気だったので手は足りている。足りないのは妻という席に座る若い女だけだった。だから権定が殺したあの女の実家が、不貞を働きなおかつ婚家を出奔し間男共々斬る状況になったことを詫びてきたとき、権定は一つの条件を出した。
権定の妻の席に座る若い女を用意しろといったのだ。
「今、なんと」
「ですから、後妻をそちらでと申し上げました」
「し、しかし。よろしいのでしょうか」
「面倒でしたら他を当たります」
「いえ!探させていただきます。なにとぞ、どうか」
「わかりました」
嫌がられたら別で探してもらえばいいと安易に考えていた権定は、相手が権定に斬られるのではと怯えているとは欠片も思わなかった。面倒事を早く片付けてしまいたいと思っていただけだったのだ。
「なるべく早くお知らせできるよう骨身を惜しまず取り組ませていただきます」
「ええ。それでは」
部屋を出て離れに入る。そこでは権定が呼んだ大工が座敷牢を作っていた。離れは権定が妻と使うようにと増築したところだ。もともとは権定の寝所だった。今も離れは『寝所』と呼ばれている。
寝所に座敷牢を作っていることを、誰も何も言わない。作ってることも、外の世界では咎められることなのかもしれないが、この世界では関係ないのだ。
権定は自尊心を踏みにじられないためだけに、今動いている。それが権定にとって、一番大事なことなのだから仕方がない。これまでだってそうしてきたのだ。そうするしかないのだ。
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