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この家に来てからのこと
可愛はあまり物事に頓着しない性質らしかった。だから自分が長い間年寄りと一緒に、他の家族から厄介払いされていたことにも気づいていない様子であったし、それはそれで楽しく過ごせてよかったというほどであった。
権定は顔合わせの席でなんとなく彼女は男を知らないのだろうと思った。彼女の祖母はとても厳しかったそうで、次女とはいえ武士の家に生まれたのだから貞淑でなければならぬと教え込んだらしい。
「この年齢でお恥ずかしいことですが」
恥ずかしそうに目を伏せた彼女に、それまで一切感じなかった好感のようなものを持った。いや、そうではない。彼女は前妻とは違うとはっきりして嬉しかったのだ。やはり誰かの手垢がついたものではだめだったのだ。自分は新品を自分に合わせて行くほうが良いと身にしみてわかった。
そうなるとさっきまで興味もなかった目の前の可愛が素晴らしい女性のように思えた。可愛はきっと、権定と出会うために生まれてきたのではとそう思えたのだ。
(そうだ。彼女こそわたしに相応しい)
見た目も好ましい。痩せ過ぎているわけでも太りすぎているわけでもない。
もうすっかり彼女に夢中になっていた。
陽の光の下でも顔が見たいと庭に誘い出す。そのときに握った可愛の手はやわらかくしっとりとしていて、なんだかずっと握っていたいと思わせる不思議な手だった。
(この手に撫でられたら、気持ちよさそうだ)
草履をつま先にひっかけ顔をあげた可愛は、甘えたくなるような目を権定へ向けた。まだ初対面といってもいいようなくらいなのに、彼女は権定をすっかり受け入れてくれているようだった。
「僕の家にきてください」
気がついたら口が勝手に言っていた。そんな自分に驚いていたが、今はとにかく可愛をあの中に仕舞ってしまいたかったのだ。大事なものは隠しておかねば。
寝所に作った座敷牢は昨日夕刻に完成していた。
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