この家に来てからのこと

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座敷牢に押し込めるまでもない。権定にとって可愛を言いくるめることはとても簡単なことだったし、それは可愛にとってもその方が楽とでもいうくらいの様子だった。 権定の父母は何も言わない。いや言えない。最初の妻をとうるさくいって見繕い、無理やり祝言をあげさせたのに、その妻は間男とともに出奔してしまったのだ。責任を感じているのかもしれない。 「旦那様、ここにいると私は何もできませんが」 「いい。母も達者だし下女もよく働くからな。君はここで、わたしを待てばいい」 「そうですか」 たぶん他の娘なら、それはおかしいと思ったかもしれない。しかし可愛はそう思わなかった。可愛の祖母は夫の言うことはしっかりと聞くようにと、それは口うるさくいっていたらしい。 後から知った話だが、可愛の姉はとにかく何事にも楯突くような娘で祖母とは折り合いが悪く、当時家庭内の権力を掌握していた祖母を疎ましく思っていた母親が、祖母に可愛がられている可愛共々鬱陶しがって外に追い出したというのが祖母と可愛の二人暮らしの始まりだったと聞いていた。 「なにかあれば下女に言え。朝食だけは母屋に行かせる」 それが唯一権定が父母に向けて行う気遣いだった。 「ああ、祝言だが」 「はい」 「三日後行う」 「まあ。わたしの実家は驚くでしょうね」 おっとりとそういうと、可愛はもう一度座敷牢をぐるりと見回した。殺風景な部屋を少し寂しそうに見ている。 「祝言の用意があるのでわたしは母屋に戻るが」 「……はい」 「なにか欲しいものはあるか」 突然連れてこられて不安に思っているのだろうと気遣う権定に可愛は微笑む。 「特にありません」 特に無いとはいってみたものの、やはり人気のない座敷牢は寒々しい。もし祖母が健在で自分がこんなことになっていると知ったらどう思うだろう。
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