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「健治ーー」
いつものひょろりとした細長い後ろ姿を見かけ、思わずパタパタと駆け寄る。
ここは大学の構内
去年までは高校生だった私にとって、
大学のキャンパスやカリキュラムは何もかもが
目新しくて、入学してから随分と経ったのにまだ
慣れなかった。
「おぅ水月か、どうした?」
振り返りさまふいに見せる、
はにかんだような笑顔が私は大好きだった。
須藤健治
高校からの知り合いでいわゆる同級生。
皆んなからは無愛想だ、なんて言われてるけど
本当はすごく優しいことを私は知ってる。
「健治は、次何の授業なの?私は経済だよ」
「俺は英語。
ほんとはあんまり好きじゃねぇんだけど、必須科目だからしゃぁねぇよな」と言って笑った。
黄色に染まった構内の銀杏並木を歩きながら、私たちは話をしていた。
「おっと、水月そこ段差あるぜ」
健治がいうと同じタイミングで私がよろける。
「たく、危ねぇなぁ」
片手でグイッと私の腕を支えてくれて、
どうにか私は転ばずにすんだ。
「あ、あ…ありがと」
不意打ちに起きた出来事で顔が真っ赤になってしまう。
その事が出来るだけバレないように…と直ぐに離れたけど
「お前、顔赤いぞ。熱でもあるんじゃねぇの?」と
言われてしまった。
私はどうも人より遅いというか、マヌケみたいで
よく何もないところでつまづく。
例えば友達と歩いてたら急にいなくなって、
友達が振り返るとこけていたり、
いっぱいの荷物を抱えていると、いきなり廊下で荷物をぶちまけたり…
背が148㎝とちっさいこともあるのか
動作もちょっと人より遅いし
何をやっても上手くやれない。
なんでこうもっとしっかり出来ないんだろうって
自分ではいつも思う。
いつか、しっかり者のお姉さんになれたら良いのになぁなんて思ってた。
「だ、大丈夫!!あ!!わたし経済の教室こっちじゃなかった!ごめん戻るね!」
と言い残して、もと居た道を引き返した。
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