第1章 あの頃のこと

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健治が好き、そう気付いたのは 彼のギターを聴かせてもらってしばらくしてからだったけど、 今更何言ってるんだと、はぐらかされそうで何も言えないそんな日々が続いた。 経済学の講義も終わり 放課後、私は放送室を兼ねている部室にいた。 放送研究会、ここから数年に一回くらいはプロのアナウンサーも排出している・・と いうことで有名な研究会だった。 私はアナウンサーになりたい!!なんて・・ 大それた目標があって入って来た訳ではなかったけど、 引っ込み思案というか人見知りな性格を何とかしたくて入部して見た。 西陽が差し込む研究室に入ると入り口右手側に、 資料が山積みされたデスクがいくつか置いてあり部員が交代ごうたいに使えるようになっていた。その更に奥に進むと放送室のブースにつながっていて防音室になっていた。 そこでは実際に校内に放送が出来るように機材が積んであり、学園祭や文化祭などはそこで放送をすることもあった。 「飯橋(いいばし)お前全然授業に身が入ってなかったな」 顧問の細田先生に言われて 「すみません・・」と頭を下げた。 「まぁもうすぐ学園祭だし、色々忙しいのもわかるけどちゃんと単位取るためにも  授業はちゃんと聞いとけよ」 と言われ 「はぁい・・」と素直に謝った。 もうすぐ学園祭 健治が待ちに待った軽音部での初披露の日が近いということだ。 正直健治のルックスはそれほどイケてる・・て訳ではないかもしれないけど、 でも彼の奏でる音楽は優しくて繊細で きっとファンになる子も多いだろうなと思った。 そう思うと少しだけ複雑な気持ちになったけれど 彼がちゃんとした音源で披露出来るように出来るだけのことは協力したいと思っていた。 「おう、飯橋来てたのか」 そんなことを思っていると 先輩の上持(うえもち)先輩が部室に入って来た。
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