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「ちょっと、野暮用ができた」
「ありがとな、今度お礼する」
そよ風の如く行ってしまった七海を見送り、テーブルの上に視線を戻す。
俺よりも少し多い量だったにも関わらず綺麗に平らげ、片付けやすいように一つの場所にまとめられていた。
さすがだな。地味で誰も気にしない所までしっかりしている。
俺は注文したビックリハンバーガーを、ガッツガッツと食らい、微笑ましい顔で店を後にした。
*
霊媒師。
それは悪霊を浄化するために生まれた国家職。
年間、全体人口の約一割が悪霊に関する職に就き、不自然なく日常生活に溶け込んでいる。
そんな霊媒師の一人、月崎輪は自分の痩せ具合を改めて実感していた。
「最近の輪ちゃん、痩せこけてない」
「やっぱり、そう思います」
ピンクタイツ衣装の自称愛子ちゃんは、現状を一目で見抜く。タイツから膨れ上がる筋肉の山は、俺とは一回り違い、その場にいるだけで存在感を放っている。
七海と別れた後、俺は霊媒師専用の商店街を訪れていた。
商店街は、ハンバーガー店から二つの大通りを直進した先にあり、日中問わず関係者がたむろしている。
現在いる場所は、商店街の奥地にある“ピンクエンジェル”という店だ。
護符や聖水を取り扱ったごく普通の一般的な店であるが、看板から察するように個性がちょっと強い店でもある。
今、話している相手は、ここの店主の愛子ちゃんという性別不明の人で、いつも天真爛漫の笑顔をサービスしてくる気の良い人だ。
なぜ性別不明なのか、それは見た目で判断できず、もともとどっちの性別が元なのか解らずじまいだからだ。
「ちょうど、クッキーを焼いているから食べて行く」
「はい。意外ですけど、料理もできたんですね」
「当たり前じゃない、乙女の嗜みは重要よ」
乙女の嗜みとはなんですか、と思ったが、突っ込んだら墓穴を掘りそうなので、聞かないことにする。
乙女って単語だから、七海なら知っていそうなので、後日質問しようと思う。
「愛子ちゃん、前に頼んだ商品届いている」
と、話は逸れたが俺も用事があって来ているので、要件を切り出す。
「えぇと、女装一式セットだっけ」
ぶっわ、と俺は予想外の回答に悶絶する。何年前の話だよ。
エロ本の場所がバレたような感覚に陥り、次いでに思い出したくもないネタも引っ張り出される。
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