一章 遭遇

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「違いぃぃますっう、頼んだのは呪印の触媒です」 「あぁ、それね」  愛子ちゃんは、俺の商品を確認すると一旦奥に消える。よいしょ、という掛け声とともに胸を覆うサイズの段ボールを抱えながら、姿を現した。 「最近思ったんだけど、なんで直接自宅に輸送しないの」 「えぇと、危険な物はなるべく、ここで保管して起きたいからです」  直接自宅に輸送しないのは、それなりのわけがある。  俺みたいな一般学生にとって、触媒の管理は意外と難しい。呪印構図を変更したり、調整する上で触媒は必要不可欠であるが、その中に条件付きの物も含まれている。  満月の日のみ効果がある薬草や三日しか効果が持たない蜥蜴の尻尾など、条件にばらつきはあるが、設備のない自宅で保管するのは大変だ。  そのため、学生証を見せれば、一部の専門店で保管して貰うことができる。有料で、触媒の価値や状態によって金額は変動するが、自己管理するよりは安心である。  愛子ちゃんの店“ピンクエンジェル”でも保管は可能で、俺の自己解釈だと他店より値段が安くなっている。 「でも、輪ちゃんって、輸送の日時や時間まで指定して、その日のうちに使え切るタイプじゃなかったっけ」 「そうだったんですけど、他の分野も手出して見たくなって、その影響で生活がお粗末になっちゃいました」  お粗末というレベルじゃなく堕落というレベルだけど。  愛子ちゃんが運んできた段ボールをその場で開けると、中身は蛇の抜け殻と条件がない薬草が数種類入っていた。  金を賭けた分、量より質の良いのを選んだため、効果を持つのは五日間までで、強いていうほど時間に余裕はなかった。 「へぇー奮発したわね。だけど、こんな癖の強い物扱いきれるの」 「原型のままだと無理だから、一旦砕いて粉状にする予定」  動物の死骸や抜け殻は、おもに触媒として使用でき、生きた年月や環境下で価値が大きく変動する。今回、選んだのは洞窟に生息する蛇の抜け殻で、より新鮮なものを厳選した。 「粉か、やっぱり失敗したとき怖い」 「はい、今月の食費分が入っていますから」  俺は苦笑しながら、答える。  この茶色やつに数万も賭けた俺もどうかしていると思うが、必要経費と思いコツコツ稼いだ結果がこれである。  今さら後悔して、マイマネーは返ってこないので、失敗だけはしない方向で気をつける予定だ。
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