一章 遭遇

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「よくやるわね、輪ちゃんわ」  呆れ半分、馬鹿見半分な視線で愛子ちゃんは向ける。ちょうど、遮るような形で電子レンジ音がなり、例の愛子ちゃん手製のクッキーが出来上がったことがわかった。  見た感じ、焼き加減は見事な麦色で、動物型や表情顔型のクッキーがいくつもある。  体に反して、本当に女子力高いのだと改めて感心し、俺は愛子ちゃんへの謎が深まるばかりだった。  お一つどうぞと、愛子ちゃんが焼き立てのクッキーを掴み、俺に差し出してくる。 「どうも、あっちちっ」  てっきり愛子ちゃんが普通に掴んでいるので、熱くないと思ったが、まったくの勘違いだったようだ。  この温度で、表情を変えずに掴める愛子ちゃんの手は、どんな仕組みになっているのか、いまいちわからないが視線が気になるので、早速頂く。 「おぃしぃですふぅぅ」 「よかった。材料が多かったから作り過ぎちゃったの。持ち帰るように袋用意するから待ってて」  無料でクッキーが貰えるので明日の朝食に仕様かと思い悩む。家にはほとんど食材がなく、あるのは腐った牛乳ぐらいだ。  もう飲めるレベルを超えていて、冷蔵庫内が異様な匂いで充満している。  と、いまはそんなことはどうでも良いので、一番肝心は保管値段を聞くことにする。 「蛇の抜け殻を半分保管して起きたいので、保管値段を教えてくれません」 「そうね、高価な触媒だから一万円でどう」  高い。  保管するだけで一万円も取られるなんて、想像もしてなかった。  食材際あれば、余裕で一か月は過ごせるぞ。  でも、どうせ家で保管しても一日も持たずに効果がなくなりそうなので、嫌でも納得して支払うことにする。 「ご馳走様、だけど輪ちゃんの懐は大丈夫そうなの」 「う~ん、たぶん大丈夫だと思いたい」  正直に言うと結構苦しい。というか、先月分の食費と同じ額なので今月分の食費がどれくらい消えるのか想像するだけで怖かった。  ほとんど用事が済んだので、帰り支度をするために、半分にした抜け殻を専用のケースにしまう。  それと、愛子ちゃん手製のクッキー袋を頂いたので、割れないように丁寧にしまった。 「そんじゃ、そろそろ行く」 「欲しい情報が合ったら、一回分だけタダで教えてあげるからしっかりお金を管理するのよ」  一回分だけかよ、思ったが下手に優しくされるよりはマシな方だ。
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