一章 遭遇

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 善良過ぎると返ってダメになってしまうので、甘過ぎず辛過ぎない関係が最良で良いと言える。  なので、このくらいがちょうどいいのだ。 「有難く受け取って置きます」  愛子ちゃんに軽くお礼をした後、無計画にお金を使うのはどうなのかと検討しながら店を出るのであった。 *視点変更  焼けが注ぐ浴室は、白い壁面に反射してきらきらと輝いている。湯舟から出た少女は重い足取り歩む。  表情は暗く、悩みを抱える思付かない様子だった。  紅雛琴音(くれひな ことね)は鏡越しに見る自分の姿を見て、嫌がるように目を反らせた。  鏡像である上半身は、発育が整った豊かな胸と雪化粧ように汚れのない肌を映し出している。だが、一つだけ実像と鏡像とで違いが確認できた。  鏡越しに映る琴音の髪は、実像の黒髪ではなく、血のように真っ赤に染まった赤髪だった。  ……なんで、……自分だけなの。  違う自分に気付いたのは、小学生低学年の頃だ。きっかけは同級生と一緒に髪型変えっこを行っている最中、鏡の自分が不気味に微笑んだからだった。  当初は勘違いだと思っていたが、その日を境に環境が徐々に変化した。  多くの人が知るように、鏡はもう一つの自分を映す道具として知られるが、遥か昔では真実を映す神具として扱われていた。  といっても、そんな伝承を素直に信じる者は誰もいない。嘘か真かわからないのが根源であり、信じるかどうかは自分次第だった。  そんな不気味な時期が終わりを告げ、それは唐突に起きた。髪が赤く、そして瞳の色が灰色へと鏡像が変化していた。  鏡を何度も変え買えても鏡像は変わらない。どれだけ、自分が否定しても鏡像は偽りのない真実を押し付けてきた。  鏡像と実像と姿が違う。まだ精神が未熟だった頃の私は内側ではなく、外側に支えを求めた。でも、そんな淡い期待は一瞬で砕け散った。    不気味、悪魔など存在を否定する悪口をクラス全員から聞いた。担任である教師は私がいないように振舞い、できるだけ無関係を通していた。    一か月が過ぎた頃、誰かが通報したのかわからないが、私の下に一通の手紙が届いた。送り主は、霊媒師と書かれた今暮らす家の保護者だった。
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