一章 遭遇

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 地獄の関門を無事に越えた俺は、テーブルの上で突っ伏していた。  七海の指示に従って立ち寄った店は、全国でチェーン展開している世間で知られたハンバーガー店だ。  時期外れの暑さに耐え兼ねたか、それとも親切心なのか店内は冷房がキンキンに効き、昼時前なのに社会人が屯していた。  下半身の痛みがそれなりに落ち着いてきたところで、ぐぅーとお腹から響き、空腹の合図を知らせる。なんやかんだで昨日の夕飯から何も食べていなかったことに気づき、しぶしぶ財布を見るが大した収穫はなかった。 「輪くん、人の話聞いていた」  背後から清々しい元気な声が聞こえたので振り向こうとするが、突如、頭部に冷たい感触が伝わったので意識が逸れる。見やると、お馴染みの赤い柄が視界に飛び込み、キンキンに冷えた飲み物だと一目で解った。 「まさか、金がないことを見越して、わざわざ見せびらかしに来たのかよ。おまえも相当ねちっこいな。おい」 「それはそれでおもしろいけど、今回は正真正銘の奢りよ」  七海の表情は異性を快楽させる、天使のような笑顔で分かりにくいが、冬に遡かったような凍える殺気と、先ほどよりもトーンが下がった声音で逆鱗に触れてしまったと察した。  “二つ名”優れた技術と経験が認められた霊媒師に与えられる尊敬の名前。  自分の意思に関わらず、世間で人気と敬意が出そうな名前が募集形式で集められ、人気投票という死闘を繰り広げながら最後に残ったのが選ばれる。  募集は誰でも可能で、俺も七海の可愛さを最大限に生かせる名前を、数百くらい考えたが全て落選した。  結果的には残念であるが、今の名前も結構いいので気にしてはいないのだが、本人はまったく違うらしい。  七海は相当嫌っている。  そもそも二つ名をつけること事態を、全否定しているため説得しようもなく、その話題を少しでも触れると、さっきの俺みたいになる。  あそこまで殺気満ちる攻撃をしてくるとは思わなかったので驚愕したが、今後その話題について触れるとさらに危険なので自重する。  飲み物を受け取ると、七海は目の前の空席へ座り、俺の分をぶっきらぼうに投げ付けた。嫌なら奢らなくてもいいのにと、言い掛けそうになるがグッと堪えて素直に受け取る。  これ以上、不機嫌にさせると俺の安否を左右させるので、奢りなら有り難く頂く。  けして、食べ物欲しさに吊られたからではない。
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