一章 遭遇

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 物理的には何ともなく数時間、痛みが続くだけの精神弾であるが、痛いという感覚には変わらないので、なるべく受けたくないのが理想だ。  答えなど始めから決まっているのに関わらず、やっぱり貰いたくないという気持ちが蘇り、動きが止まり掛けるが七海がさらに追撃してくる。  「七海が指で下を見ろ」と指図してきたのでしぶしぶ見ると、光沢を放つ金属の筒があり、精装媒体が俺の大事な部分へと向けられていた。  “精装媒体(デバイス)”とは術印が施された物であり、悪霊祓いの道具を指す。  主に銃に施されることが多く、悪霊だけが霊媒師の敵ではないので、もしもの時のために攻撃手段として持ち歩きが許可されている。  一般に金属弾が装填できる銃を連想されるが、霊媒師が使う銃は霊子の塊を発射するため、物理的には殺傷力ないが精神に痛みを与えられる。  使う弾薬によって効果が変わるが、防衛手段として機能するので多くの学生に愛用されている。  今さらだが、俺への選択権など初めから存在しなかったと痛感し、よくわかないまま怪しい小切手に手を伸ばした。 「有り難く受け取らせて貰います」 「よかった、もし断っていたなら」  これ以上聞いたら、精神的によろしくないので両耳を手で押さえて音を遮断する。一時的であるが、この世と隔絶した空間へと導かれるように逃避した。 数分経過後・・・ 「輪くん、わかったよね。人が親切に恵んで上げたお金を下らないことに使わない」 「いやでも」 「口答えしない。数日間、録なもん食べていないのが見え見えよ」   七海が財布事情を全て把握しているような発言したので、視線を合わせると「そうでしょ」と睨んできたので確実にバレバレだと理解した。  俺のお財布事情は現在進行系で金欠気味だ。その為、スーパーで格安で売られているもやしを使った、もやし生活を余儀されている。  発端はたまたま図書館で見掛けた呪印の本だ。  子供向けの表紙であるにも関わらず、書かれている内容が特殊過ぎて読むだけでは理解できなかったため、それを試すために材料を集めた結果が今である。  数秒沈黙の時間が続いていると、七海の周辺から着信音が流れたので無意識に出所を追う。  やはり、七海であるらしく、スマホの画面を見るや帰り仕度をし始めた。
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