5.pouch of a kangaroo

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

5.pouch of a kangaroo

 合評会に一本。ネットのコンテストサイトに一本。そして、文芸誌にも一本。三篇の短編を選び抜いて僕は僕の空を飛んだ。  絵にも描けない高揚感と万能感、物理を必要としない完全な咆哮に、むせることもできなかった。僕の書いた小説は僕だ。こんなにも頼もしいことはなかった。生きることを否定的に見なくても済む毎日は永遠を含んでいた。実に、気持ちが良かったんだ。  カンガルーのポケットはポーチというんだね。  ゲットアガン。イミテーションガン。頬傷の男がキリンの鳴く夜に一人事をなす。男の悪だくみは世界一の崇高さで、男を男の中の男に変えていった。黒目に星を飼い、背中に羽の根っこをもらった。カンガルーは逃げる。男はモデルガンを片手に追った。身重のカンガルーは諦める。男はカンガルーの赤ん坊を責任持って世話した。話せばわかる。カンガルーの母親は袋にモデルガンを預かった。キリンが鳴いて、男が哺乳瓶でカンガルーにお乳をあげた夜からきっちり百日。成長したカンガルーの坊やと頬傷の男が構えるミットは乾燥した大地に破裂する風となって原住民を喜ばせた。  交換するカンガルーの坊やと本物に変化したピストル。  リアルピストル。リボルバー、ダンシングクレイジーマン。頬傷の男は自分のこめかみに銃を構える。  カンガルーの坊やはお母さんの袋から体の三分の二をはみだして、頬傷の男を見ていた。  ラストのページ。頬傷の男は左手の指ピストルと言葉の銃声でバンと言った。右手の本物は? トリガーは? そんな疑問を残して物語は読者に委ねられる。そう、読者のお腹のポーチに偽物の銃が住むのだ。  漫画と、僕の小説は同じ物語を空に反射して虹色の八色目になる。 「坂本君、これ、面白い。アイディアと展開がスリリングで人間の以前があるように思えるわ」 「坂本君、変わったね。創作者は在った自分を食べて変容するって聞いたことあるけど、凄いよ。高校生でこんな」 「坂本君、この小説、私、好き」  坂本君。坂本君。僕ができていく。僕の小説をみんな褒めてくれた。僕も、好きでいられる僕をたくさん集めて、みんなのことをこれまで以上に好きになれる。   
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!