1.文芸部

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1.文芸部

 小説を書く部活動だから、入部したんだ。僕は小説を書きたかった。なのに顧問の先生にも三年生の部長にも、部員仲間たちにも小説を褒められない。 「坂本君は文章がちゃんとしているから、ノンフィクションやエッセイ、評論なんかで活きるんじゃないかなと思うよ」 「坂本君の小説には、辛辣な言い方になるかしれないけど、面白みが薄いね。読んでいてもなんだか現実感ばかりが濃くなるんだ。小説世界と坂本君の生きている現実に隔たりを感じないんだな。書き手が飛んでいないと読み手も飛べない。読んでて飛べない小説を私は評価できないの。ごめんね。でも、坂本君の書く文章には読み手に舐められない隙のなさがあるわ。それは部の中で頭一個出てるわよ。だから場さえ定めてしまえば誰より凄い書き手になる可能性を持ってる。お世辞じゃなくてね」 「坂本君の小説は確かさが明確です」 「坂本君の文章は細やかで単語ひとつにまで血液が流れていると思います」  ありがとうございます先生。ありがとうございます夏目部長。血縁なんですかってベタな質問してすいませんでした。ええ、ひ孫にあたるのよってこっちが固まるまでツッコミを待ってくれて楽しいひとときでした。  ありがとう先輩。ありがとう同学年の仲間たち。僕の文章を褒めてくれて嬉しいありがとう。  本音というものと、体裁というものを比べてみて、水面を打った方で鳴けばいい。被るお面はあの日、縁日でお爺ちゃんが選んでくれたパーマンより僕の顔にしっくりくるから。  僕の小説を褒めてくれ。  僕の書いた小説を面白いと言ってくれ。  そんな本音はからっぽの空に反響する。  空、か。 「みんな心を澄まして聞いてください。部長の投稿した作品が来月の『純文』に掲載されることが決まりました」 「みんな応援ありがとうございました、僕、ネットのコンテストサイトで優秀賞獲りました」 「今月の合評会総点は梶山さんの作品でした、おめでとうございます」  文芸部のみんなの空に、僕はいない。  おめでとう、おめでとうございます。言いくたびれました。でも、いつか言ってもらえるおめでとうの貯金みたいなもんだと思って、僕は言います。おめでとう。  高校生の書いた小説が文芸誌に載るんですね。  高校生の書いた小説がネットコンテストで勝つんですね。  僕の書いた小説に点をくれる人はどこの空を飛んでいるんだろう。
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