屋上のチャネラさん

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 その夜、わたしが屋上へ行ったのは、そこから飛び降りるためだった……。  わたしは、もうすぐ結婚という幸せの絶頂で、相手の男に裏切られて絶望のどん底へ突き落されたのだ。  ……いや。ずいぶん前から浮気していたようだから、ずっと裏切り続けられていた(・・・・・・・・・・)というべきだろうか?  挙句、結婚はめでたくおジャンとなったっわけなのだが……浮気が発覚したので、わたしの方から婚約解消したのではない。浮気相手の女が妊娠したからと、向こうから別れ話を切り出されたのである。  もう、会社には辞表を出し、職場のみんなも寿退社を祝ってくれていたというのに……しかも、その男というのは同じ会社に勤める同僚だというのに……。  裏切られたばかりか〝男をとられた女〟として好機の目にさらされ、その上、今さら「やっぱり退職しません」とも言えずに失業するという二重、三重の被害……だから、これからもあいつがのほほんと働き続けるであろうこの会社の社屋で、自殺してやろうと考えたのである。  終業後、人気(ひとけ)がなくなるのを待っての夜8時過ぎ……。 カン、カンとハイヒールの足音を淋しいオフィス街の夜空に響かせ、わたしは誰もいない本社ビルの屋上へと登る……。 そう……そこには誰もいないはずだったのだが……。 「――カーモンベイベ~未確認! 宇宙(そら)の飛び方をインスパイアっ!」  所々錆びが茶色く出ている白い非常階段を登り切り、肌寒い夜風の吹き抜ける広い屋上へ出てみると、そんな鼻歌のようなものが風に乗って聞えて来たのである。 「カーモンベイベ~未確認! 交信するビームっ! アブダクションケース!」  思わずその歌声に耳をそばだててみると、どこかで聞いたことのあるようなメロディではあるのだが、その歌詞はなんだかおかしなものになっている。  怪訝に思い、眉間を歪めたわたしは誰もいないはずの屋上をきょろきょろと見回す……。  すると、街の明かりにぼんやりと浮かび上がる薄暗い空間の端に、なんとも変な動きをしている人影があった。
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