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引き締まったダンサーの肉体とは大きくかけ離れた、ずんぐりむっくりでポッコリお腹の一目でメタボだとわかる少々頭の薄くなったおじさんが、黒い海のような夜の闇とコンクリで出来た空中広場の境目で、その変な鼻歌を唄いながらピョンピョン片脚で跳ねているのだ。
目を合わせるとヤバそうな、明らかに近づくのをご遠慮したくなるような怪しい人であるが、そのひょうきんな顔とどうにも似合わないスーツ姿には見覚えがある……。
わたしだけでなく、この会社に勤める人間ならば誰しもが彼のことを知っていることだろう……ただし、ああ見えて実は会社の重役だとか、見た目とは裏腹に意外と仕事ができる男だとか、そういった類の良い意味からのものではない。
むしろ逆に仕事はできず、万年ヒラのうだつの上がらない、この歳になっても独身・彼女ナシの中年社員ではある上に、とんでもないオカルトマニアで常日頃からデンパなことばかり口にしている、ちょっとアレなことで皆からイタイ目で見られている守田さんである。
「U、U、U、U! F! O! U、U、U、U! F! O!」
そのトンデモな守田さんが、なぜかこの終業後の夜の屋上で、変な歌を歌いながら妙なダンスを踊っている……。
そのふざけた歌詞もコミカルな動きも、今のわたしの暗く打ち沈んだ心とは真逆なものであり、こうして見ているだけでなんだかものすごくムカついてきた。
「あの~!」
その能天気ぶりが癇に障ったためだろうか? 意味もなく頭にきたわたしは、気づくと声を張り上げていた。
「U! F! O! ロズウェルに落ちた円盤~……U! F! O! ステルス機に真似した~」
だが、彼はわたしの声にまるで気づくことなく、なおもそのよくわからないダンスを熱心に踊り続けている。
「んもう! すー……あのぉぉぉ~っ! 守田さぁぁ~んっ!」
「U! F! O! FBI隠してた……ん? ああ、君は確か……ええと……」
ますますカチンときて、大きく息を吸い込んで最大限のヴォリュームで彼の名を叫ぶと、ようやくわたしの存在を認識した守田さんはそのダンスをやめ、片足を上げたままの奇妙な姿勢でドングリ眼をこちらに向けた。
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