屋上のチャネラさん

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菅里(すがり)です! 庶務課の!」  しかし、仕事上、何度も話しているというのにすぐ名前の出てこない彼に、語気を強めてわたしの方から名乗る。 「ああ、そうそう! 菅里さんだったね。どうしてこんなところに?」  すると、いかにも「ちゃんと憶えてましたよ」的な苦笑いを浮かべて誤魔化し、逆にこっちが訊きたいようなことをキョトンとした顔で尋ねてくる。 「それはこっちの台詞です! 守田さんこそ、こんなとこで何してるんですか? 忘新年会はまだまださきだhし……結婚式の出し物かなんかですか?」  わたしの中の常識からすると、そのくらいのことしか思いつかない……だが、さらにイライラしつつ尋ね返したわたしに守田さんが答えたのは、その常識をはるかに凌駕するトンデモないものだった。 「……ん? ああ、この交信のダンスのことかい? なーに、ただUFOを呼ぼうとしてただけさ」 「ゆ、UFO!? こんなとこで!?」  ……いや、普通の人ならともかく、守田さんならまあ、ありえなくもないことかもしれないが、それにしたって、なにも会社の屋上で仕事終わりにしなくてもいいだろう?  ……って、同じシチュエーションで自殺しようとしてたわたしが言えた義理じゃないかもしれないけど……。 「そ。僕、チャネラー……つまり、宇宙人と交信してUFOを呼ぶことのできる人間を目指しててね。そんで、チャネリングするんなら、やっぱり高いとこの方がいいと思って。だけど、自由に出入りできる屋上って会社のビルぐらいしかないんだよねえ~」  わたしの心を読んだわけでもないだろうが、ダンスをして噴き出した額の汗を袖で拭いながら、どこか得意げな様子で守田さんはそう説明する。  なるほど……そのチャネラー云々いうデンパな情報は置いとくとして、ここを使っていたことに関しては案外、合理的で筋は通っている。 「男に復讐するため」なんていう陰湿な動機でここへ来たわたしなんかよりも、守田さんの方がむしろまっとうなのかもしれない……。 「それで、菅里さんはどうしてここに? あ、もしかして菅里さんもチャネリングを…」 「んなわけないでしょう!」  なんだか今の自分が本当に情けなく思えてきて、視界が歪む両の眼からは堪らず涙が溢れ出しそうになるわたしだったが、わたしまで同族だと誤解する彼に思わずツッコミを入れてしまう。
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