屋上のチャネラさん

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 幾億幾万の星…………ねえ……。  守田さんの言葉とは裏腹に、あいにくこの明るすぎる街の灯が邪魔をする大都会では、幾億幾万どころか星の瞬きがほとんど見られない……。  だが、ぼんやりと霞む大きな暗灰色のドームの向こう側に、どこまでも拡がる広大な宇宙のあることは感覚的になんとなく理解できた。  確かにこれだけ広ければ、どこかに宇宙人の一人や二人いてもおかしくはないかもしれない。  そういえば、何億光年も離れた距離を地球まで来る技術があるかどうかが問題なだけで、この広い宇宙に地球人以外の知的生命体がいないと考えることの方がナンセンスだと、まっとうな科学者が言っていたのを聞いたことあるような気がする……。  UFOで飛んで来ているかどうかはわからないけれど、この夜空の先の、ずっとずっと遠くのどこかの星に、わたし達が宇宙人と呼んでいるような存在が今、この瞬間にも現実に暮らしているんだあ……。  鈍色(にびいろ)の夜空の向こうに思いを馳せながら、そんな壮大なことを考えていると、「男に裏切られた」なんていう人生最大の不幸もずいぶんとちっぽけなものに思えてきた。 「U! F! O! 開発してたエリア~……U! F! O! アポロ計画流用した~」  それに、この守田さん……再びあのふざけてるとしか思えない歌とダンスを大真面目に始める彼を見ていたら、男のことなんかで死のうとしていた自分が急にバカらしくなった。 「ハァ……すみません。わたし、帰ります」  わたしは大きく一つ息を吐くとチャネリング中の彼に一応、断りを入れ、早々にその場を去ることにした。 「U! F! O! 彼らの中古の円盤……え、もう帰っちゃうの? 何かここに用があったんじゃ……」  すると、守田さんはまた片脚を上げたままの滑稽なスタイルで動きを止め、ちょっとだけ驚いたような顔で尋ねてくる。 「はい。あったけど、もうその用事もなくなりましたから」  そんな彼に苦笑いを浮かべて答えると、意味がわからずポカンとする彼をその場に残し、わたしは夜風に髪を靡かせながら、くるりと踵を返した――。
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