屋上のチャネラさん

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 その後、わたしは事情を上司や同僚に相談して辞表を取り下げ、今まで通り会社で働くことにした。  恥を忍んでの辞表撤回……なかなか勇気のいる行動だったが、その決断は予想に反して良い副作用を生んだ。  わたしは〝男をとられた女〟として好機の目にさらされるどころか反対に皆から同情され、逆に裏切った男の方は女子社員全員から総スカンを食い、仕事がまったく回らなくなって海外の名も知れぬ国の支社に転勤となったのである。  結婚が破談になった不幸な現実には変わりはないが、世の中、そこまで悲観するようなものでもなかったということだ。  一時の感情に任せて飛び降りなどせずに本当によかったと、今では自分の弱いメンタルを心底、反省している。  ……でも、あの時、もしも屋上で守田さんに出会っていなかったら……そんなもう一つの未来を想像すると、ゾクっ…と背中に冷たいものが走る。  結果論ではあるが、わたしは守田さんに救われたのかもしれない…………なんか、ものすごく癪だけど。  ともかくも、そうこうして日常を取り戻していったわたしだが、今日また一つ、ほんと死んでしまいたくなるような、ものすごく落ち込むことがあった。  仕事で大きなミスを犯し、会社に多大な損失を与えてしまったのだ。  わたしが怒られるだけならばまだいい。だが、上司も関係各位に頭を下げて回らなければいけなくなり、また、そのミスをカバーするために同僚達も奔走するはめになってしまったのだ。  虫のいい話にも、辞表を撤回したわたしなんかにみんな優しくしてくれたというのに、そんな大恩ある人々にこんな多大な迷惑をかけて……本当に自分が惨めで情けなくて、またもや飛び降りでもして消えて無くなってしまいたいというネガティブな感情に支配されてしまう。 「…………守田さん、今夜もチャネリングしてるのかな?」  ふと、守田さんに会いたくなった……いや、正確に言うと、屋上で変なダンスを踊っている守田さんの姿が見たくなったのだ。  とりあえず問題が解決していろいろと落ち着いた後、気づけば屋上へとわたしの足は向いていた。  とうに終業時間を過ぎ、夜の闇に白く浮かび上がった非常階段を、カン、カンと甲高い足音を響かせながら、どこか逸る気持ちを抑えて小走りに昇る……。
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