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私がまだとても小さかったころ、私は父に向って尋ねたことがあった。
「ねえパパ、あの星はいったい、何ていう名前なの」
すると父は、私に向かって、こう答えた。
「あの星はね、『サンタ・クラナ』って言うのだよ」
名前まで神秘的だと、当時の私はそう感じた。サンタ・クラナの「クラナ」の方は私にとって聞き慣れない言葉だったが、「サンタ・クラナ」とセットになると、なにやら物語に出てくる、魔法の呪文のようで素敵だと思った。
サンタ・クラナ、サンタ・クラナ、サンタ・クラナ―――私は脳みその中で、何度も繰り返した。父はそんな私の様子を、梟のような優しい目で見守っていた。父の様子を見て、当時の私は何を思ったのかは知らないが、私は父に向かって、だしぬけにこう聞いた。
「ねえパパ、私たちが今居るところから、あのサンタ・クラナまで行くのには、一体どれくらいの時間がかかるのかしら」
この質問は、父を悩ませたようだった。父は、私から目をそらし、サンタ・クラナの方を見つめた。
「そうだねえ……。サンタ・クラナまで行くのにどれくらいの道のりがかかるのかは、私にもわからないよ。というのも、私たち人間の中には、まだ誰も、あの空の向こう側に行って、帰ってこられた人はいないんだ」
「誰も居ないの」
私はそう聞き返した。父はもう何も言わなかったので、私ももう父とのお喋りに飽きてしまい、窓の外で光っているサンタ・クラナを見つめた。緑色や桃色のくずくずが月の光を反射して、柔らかい、神秘的な光を発していた。
私は、ため息をついた。誰に言うわけでもなくこう呟いた。
「いつか行きたいな…。あの空の向こうまで」
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