星に願いを -サンタ・クラナ-

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 その2年後に、私は家の近くにある公民館に通うようになった。私の家は、さほど裕福ではなかったため、小学校に通えるだけのお金はなく、代わりに無料で教育を施してくれる公民館に私は通っていた。公民館では、主に6歳から12歳くらいの子どもに、簡単な読み書きと計算、一般常識と道徳を教えてくれた。  この日は道徳教育の日だった。私は、従妹のおさがりの基礎道徳書を鞄に入れ、公民館へ向かった。 「この中に、人は死んだら一体どうなるのか、分かっている人は居ますか」  ごわごわの髪を輪ゴムで1つに縛った、女の先生がそう尋ねた。前の方で座っていた、黒い髪の女の子がはいと言って手を挙げた。 「死んだ人の魂は、サンタ・クラナへ行くのです」 「よろしい。正解です」  先生はそう言って、黒板に、人間の体から魂が抜けだしている絵を描いた。 「このように、人は死ぬ瞬間、体の中からたましいだけが抜け出てくるのです。そして、抜け出たたましいは空高くまで舞い上がり、そしてあの雲の向こうにある、サンタ・クラナという星まで飛んで行くのです。サンタ・クラナは天国のように美しく、ご飯も美味しく、なおかつ先に死んだ友達や家族、ご先祖様が先に待っていてくれるのです。だから、サンタ・クラナに行った死者たちは、決してつらい思いも、寂しい思いもすることはありません」  先生は、そんなことを悠々と語っていた。サンタ・クラナに関する話がその後1時間程度続いた。
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