星に願いを -サンタ・クラナ-

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 けれども私は、そんな先生の様子を見ているうちに、何だか薄気味悪くなってきた。決して死者たちがサンタ・クラナに行くということを、信じられないわけではない。本音を言えば、死者はサンタ・クラナに行く、それ以外の事は何も考えられないといった風に、盲目的にサンタ・クラナについて語る先生が怖かった。  その日の授業が終わったあとで、私は先生を呼び止めた。 「私たち人間の中で、ただ一人でも、あの空の向こうのサンタ・クラナに行けた人は居るのですか」  先生は、教材を片付ける片手間にこちらを振り向いて、「いいえ」と言った。 「サンタ・クラナに行けた人なんて、どこにも居ませんよ。それどころか、私たちの中では誰も、夜空で輝く星のたったひとつにすら、辿りつけてはいないのよ」  私はつい聞き返した。 「じゃあ先生は、今まで誰か死後の魂に出会い、死後の世界はどのようなものなのか、聞いたことがあるんですか」  私は大真面目だった。次第に先生は、この手の質問に飽きてきたらしかった。先生は髪をかき上げ、ため息をひとつつき、こう言った。 「死後の世界はどのようなものなのかなんて、聞けるわけありませんよ。そもそも、私たち人間の中では誰も、死後の魂に会った人も、魂と会話できた人も居ないのだから」 「死後の世界について、教えてくれる人は誰も居ない。サンタ・クラナに行けた人も誰も居ない。それなのになぜ先生は、死んだ人間の魂はサンタ・クラナに行くなんて断言ができるのですか」  私は一気にそう言った。この質問は先生を苛つかせたようだった。さっきまで、私の質問に飽きて、ぼんやりとしていた先生の顔が、今度はみるみるうちに強張っていったのが、見ていて分かった。 「そう。つまりあなたは、死者の魂がサンタ・クラナに行くのだとは、信じていないと言いたいのね」 「違います。ただ私は」 「一つだけいい事を教えてあげるわよ」  先生はそう言って、手に持っていた万年筆をかちりと鳴らした。 「死ねばサンタ・クラナにたどり着けると信じていない人は、死んでも決してサンタ・クラナには行けないのよ」  先生の顔が、燭台の光を受け青白く冷ややかに染まっていた。私は、この時点で、先生にとっての禁忌に触れてしまっていたことに気が付いた。私は何も言えず、鞄を抱え、逃げるようにして公民館を後にした。先生は一度も、こちらを振り返らなかった。
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