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 大人に憧れ、背伸びをしたくなる時期がある。僕の弟が今まさにそうだ。    冬のある日、今日弟はイヤホンをつけ、歩いていく。僕は曲に乗るように首を動かす弟を見つめていた。 「何聞いてるの?」 「洋楽。もうJポップなんてダサくない?」  唐突に極論を持ち込まれ、おう、と声を漏らす。  呆気にとられる姿を納得してないように思われたのか、片方のイヤホンを外し、話を続けた。 「だってさ、使われる歌詞がだいたい一緒だし安っぽいんだよ。『空を見上げた』とかさ」  弟の言葉に苦笑いをする。 「たぶん、下よりは上を向いた方が良いってことじゃないかな」  すると、弟は呆れたように溜め息をついた。 「分かってないな。なら、上を向いてみなよ」  そう言われて空を見上げる。    白い雲がちょっとだけ漂う青い空。そして、光輝く太陽が僕らを照らしている。 「あるのは、眩しい太陽だ。今の世の中、かえって憂鬱になるだけだ」
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