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予選は夏季と秋季の二回にわけて行われる。
ユメナと龍太郎はそれぞれ別のブロックに配置され、代表選出までの段階で潰し合うという可能性はなくなった。
これが由浅家に対する忖度なのか、はたまた偶然なのかは知る由もない。
少なくとも、龍明が魔術協会になんらかの働きかけをしたという事実はなかった。
彼らの道は、彼ら自身の実力で開拓しなければ意味がないと思っているからだ。
ユメナが順当に予選を勝ち抜くのは、すでに既定路線であり驚くことではなかった。
問題は龍太郎のほう。初日に負けて帰ってきて、その悔しさと怒りを家中に撒き散らすのを覚悟していた。
だが意外にも、彼は勝ち進んでいた。
夏季を勝ち抜き、秋の最終予選の日。
龍太郎に緊張の色はなく、逆に姉のユメナのほうがガチガチに緊張していて不安になるほどであった。
精神的な強さでは龍太郎に分があった。勝負事の勝敗は、技量、才能、練習量……様々な要素が複雑に絡み合うが、最終的にモノをいうのは気持ちの強さである。
絶対に俺が負けるはずがない。龍太郎の強い信念が、そのまま結果へと直結しているようであった。
その日の夕刻。
ユメナが心底安心した面持ちで帰宅してきた。
勝って当たり前というプレッシャーから、ようやく解放されたようで、龍明は娘に一言「お疲れさま」と声をかけた。
だが、すぐにこれまでのプレッシャー以上の重圧を背負うことになる。
今度は大舞台で。
その数時間後、すっかり外が暗くなってきてから龍太郎が帰ってきた。
彼のムスッとした表情を玄関で見たとき、ダメだったかと思った。
結果を聞くのも可哀想だが、聞かないわけにもいかない。
運動シューズのヒモを解いている息子へ龍明は
「どうだった……?」と尋ねた。
龍太郎はあっさり言った。
「勝った。当たり前だろう」
そばで身を隠しつつ盗み聞きしていたユメナは小さく「ウソ……」と呟いた。
あー疲れたーと言いながら龍太郎は何食わぬ顔で二階の自室へとあがっていった。
息子は、自分が思っている以上に大物なのかもしれない。
そう龍明は思った。
しかし龍太郎が部屋に入って数秒後、家全体が揺れ動くほどの咆哮が響き渡った。
歓喜の叫びであった。
彼もまた、圧し潰されそうなプレッシャーと戦っていたのだろう。
龍明の胸にも徐々に喜びがこみあがってきた。
自慢の子どもたち二人の活躍を、はやくこの目で見てみたいと心から思うのであった。
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