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寝る前になると、色々なことを考えてしまう。今日一日に起こった出来事、これからの人生の展望について、はたまた、自分が主人公の都合の良い妄想の物語などである。
だが今日のお題は、間違いなく横で寝ている彼女のことであろう。
寒空の下で深夜、小さく縮こまっていた夢香。この部屋にきてからは明るい表情の彼女しか見てないが、最初に見た儚げな、吹けば飛んで消えてしまいそうな雰囲気を忘れることができない。
そんな夢香に対し、自分は当然の疑問を口にしなかった。
『なぜ深夜に、あんな場所でしゃがみ込んでいたのか』
気にならなかった訳ではないが、それを聞いたら自分は当事者になってしまう。当事者になる覚悟もないのに事情を聞くのは、無責任であると思ったのだ。
それに、彼女は明日になればこの部屋を出ていくはずだ。事情を聞く必要もない。
龍明は自身の考えを正当化しようと、誰に対して言っているのか分からない言い訳を繰り返していたが、答えのない袋小路に迷い込みそうになったので、考えることをやめた。
龍明は、寝返りをうつふりをして夢香を薄目で見た。彼女は静かに寝息をたてている。その姿を見ると、先ほどまでの激しい思考の渦は緩やかな流れになった。
と同時に、一日の疲れがどっと体に押し寄せてきた。
やがて彼も瞼を閉じ、深い眠りに身を落としていった。
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