エピローグ

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 ユメナの背筋が引き締まる。  ある程度は言われることを覚悟していたようにみえる。 「でも……わたしは」 「…………」 「わたしは……」  はっきりしない姉に痺れを切らした龍太郎は、 「うじうじうじうじ……うっとうしい! 身長(タッパ)だけは一丁前のくせになぁ!」 「背は関係ないでしょ!」 「いいから出ろって言ってんだよ。万里奈ばあちゃんだって、親父だってでてるんだ。当主になるつもりなら、四の五の言わず出場しろっ!」  言われてみればと、ユメナはハッとした。  追従するように龍明も口を開く。 「ユメナ。数年前、きみは『お父さんみたいになりたい』って言ったのを覚えているかい?」 「うん……今でもその気持ちは同じ」 「魔術協会に入って運営を担うつもりなら、なおさら大会の雰囲気というものをその身をもって感じたほうがいい。魔術大会は文化の主軸だ。これからどんどんルールや環境が整備され、規模が拡大していく。大会に出場したという経験は決して無駄にならず、それどころか大きな(かて)になるはずなんだ」  ユメナは案内状をそっと掴み、視線を這わす。  弟に突き付けられてなお見向きもしなかった紙面を、食い入るように見つめる。  断るつもりだった感情が段々と形を変形させ、いまでは胸の高鳴りがうるさいほどであった。  数秒で黙読したユメナは案内状をもとの場所に戻し、そして 「わかった。でてみるよ、大会。……ただし!」  龍太郎に人差し指を突きつけた。 「あんたに言われて出場するわけじゃないから。そこだけは勘違いしないように」 「……ハッ! 俺は姉貴と戦えればそれでじゅうぶんだからな。マジで楽しみだぜ。大勢が見ている場で姉貴をボッコボコにできるのがなぁ!」 「てか、あんたはまず予選を突破できないでしょ。現実みなさいよ」 「うるせえ!!」  ぎゃあぎゃあ言い争う二人を、いつもとは違う感情で見守る龍明。  ユメナの言うとおり、龍太郎が日本選抜になれる可能性は著しく低い。  だが、彼ならあるいは……という不思議な気持ちがあるのも確かなのであった。
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