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「ぶえくしょーい!!」
盛大な、おやじ臭いくしゃみが後方から聞こえた。龍明は反射的にうしろを振り返ってしまった。
また少女と目が合う。しまった、と思ったが時すでに遅しであった。龍明と目が合った少女は一瞬何かを考え込むような素振りを見せたあと、空を仰ぎながら、
「あー寒いなー、どこかに私を拾ってくれる無精ひげが素敵なおじ様はいないかなー!?」
と大声で叫んだ。
彼はとっさに自分の顎を触った。手にじょりじょりとした感触を感じ、『無精ひげが素敵なおじ様』とは自分のことなのかと、どこか他人事のように感じていた。
「あーあー寒いーー! 死んじゃうよぉー!!」
少女の声のボリュームが一段階上がった。
コンビニ店員が何事かと思ったらしく、外を見やる。コンビニ前の道行く人たちも、少女に目を向ける。
少女に目を向けるということは、当然その視界のなかには龍明も含まれていることである。
騒ぎの片棒を担いでいると思われたくない龍明は、小走りで少女の前に駆け寄った。
「ちょ、ちょっと君。どうしたの」
「あ、ナンパですか? いいですよいいですよ、何処へなりともついていきますとも!」
龍明は、少女に声をかけたことを心底後悔した。
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