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「うわあ、ザ・中年男の一人暮らしって感じの部屋ですね、素敵!」
「君ねえ……」
龍明は、なし崩し的にマンションの二階にある、自分の部屋までついてきた少女を、げんなりした顔で見つめた。
少女は、平均的な身長の龍明より頭一つ分以上は小さく、大分小柄であった。
玄関を入ってすぐの台所を通り抜け、八畳ある居間に勢いよく入り込んだ彼女は背負っていたリュックサックを床に置いた。
そして、とことこと歩き回り、本棚や家具を物珍しそうに眺めていた。別に珍しいものは何もないのだが、見るからに楽しそうである。歩くたび、腰まで伸びた長い黒髪が揺れていた。
「君、君、ちょっと」
龍明は脱いだ上着をハンガーにかけながら、少女に話しかけた。
「何ですか?」
「君、未成年でしょ。親御さんに連絡するから電話番号教えて」
「えっ?」
「えっ?」
少女は面食らった様子で、龍明を見上げた。彼も、予想外の反応が返ってきたので、同じ言葉を言い返してしまった。
「ああ……」
なにかに納得した少女は、リュックサックをごそごそと漁り、取り出したものを龍明に見せつけた。
「はい、身分証明書。由浅夢香。今年で二十五歳でっす!」
少女、もとい夢香は右手を斜めに額に当て、いわゆる敬礼のポーズをとった。
龍明は半笑いが漏れ出し、口角を少しだけ上げた。
「全然見えないね……」
「ありがとうございます!」
彼女はその言葉を素直に称賛と受け取り、嬉しそうであった。
くぅ。
夢香のお腹から空腹を主張する音が鳴った。それを聞いた龍明は破顔し、問いかけた。
「ご飯食べる? さっきコンビニで買ったやつだけど」
「食べます!」
「おにぎりとカップ麺、どっちがいい?」
「カップ麺で!」
龍明は「了解」と軽く答え、台所に行き、やかんに水を入れコンロに火をつけた。
時刻はすでに深夜二時を回っていた。
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