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夕食を食べ終わった二人は特にすることもなく、夜も遅いこともあって寝支度を始めた。
龍明は押入れから、来客用の敷き布団とかけ布団を取り出していた。しばらく干していなかったため、ひどくカビくさい。
これを使わせるのは気の毒と思った龍明は、聞いてみた。
「由浅さん、今日寝る場所なんだけど。おじさんの体臭がたっぷりしみ込んだベッドと、カビ臭い布団、どっちで寝たい?」
「カビ臭い布団のほうで」
夢香は真顔で即答した。心なしか声色が低い。
自分の体臭はカビ以下か……と一瞬落ち込んだが、普通に考えたらそうだよなと納得した。
「電気消すよー」
「はーい」
寝巻に着替えた龍明は部屋の電気を消し、ベッドに潜り込んだ。すでに布団に入っている夢香は、小さく咳込んでいる。
カビ臭いんだろうなあ、と可哀想に思った龍明であったが、こればかりはどうしようもないので何も言わないことにした。
「おじさん」
電気を消してしばらくすると、夢香が話しかけてきた。
「ん」
「今日はありがとうね」
「いいよ。明日には帰ってね」
その言葉に、彼女はなにも返さなかった。
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