夢の終焉

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「入院……? なんのために……」  そう問うた宗太朗へ、鷲崎はエリート特有の馬鹿にしたような口調で言い放った。 「検査のために決まってるでしょう。私が意味もなく奥さんを同伴しろなんて言うはずがありませんので」 「は、はぁ」  宗太朗の怒気はすっかり鷲崎の勢いに押され、奥へと引っこんだ。 「日用品は東西病棟か南病棟の一階に売ってますので、とりあえず今日の分はそこで揃えてください。……あれ? 入院セットサービスに含まれるんだっけ? 忘れたな……。あーえー、諸々のことは看護師に聞いてください」  鷲崎の物言いは、有無を言わせぬものであった。  内線電話で看護師へ手短に事を伝えた鷲崎は、「それでは」と言い立ち上がった。  呆然と見送ろうとした矢先、宗太朗は彼が退室する寸前のところで「ま、待ってください」と言った。 「なにか?」  私は忙しいんだと含みがある声であった。 「あ、あの……。本当にこの入院で、妻の病気が判明するのでしょうか」 「しますよ」  当然でしょうとばかりに鷲崎は言った。 「なぜ、そう言い切れるんですか」 「私が、病気(てき)を見つけるまで諦めるつもりがないからです」  白髪交じりの前髪から覗く瞳には、強い信念が渦巻いていた。  宗太朗は、鷲崎の言葉を信じてみようと思った。  鷲崎は「では」と、今度こそ退室した。  長い廊下を歩く間、鷲崎はぶつぶつと独り言を並べた。 「自己免疫疾患が怪しいんだよなぁ……。バセドウ病、シェーグレン症候群……橋本病? ううん、違うな。まだまだ判断材料が少なすぎる」  彼の独り言は高音が故に、白い床や壁に反響し、しばらくそこに残り続けた。
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