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「その愛人を三人も囲っていた大馬鹿野郎は、私の夫です」
「えっ? と、いうことは、まさか也耶子はこの葬儀告別式の……」
この事実を知らなかった彼女には何の罪もない。
「一応、喪主でございます」
「あちゃあ、偶然とはいえ悪いところに遭遇しちゃったわね。でも、也耶子らしいか」
学生時代、也耶子は「ややこし屋の也耶子」と呼ばれる《こじらせ女子》だった。彼女が口を挟むこと、手を出すこと全てどこかで歯車が狂い、物事が順調に進まないのだ。
だから、也耶子に大役は任せられないというのが、演劇部では暗黙の了解になっていた。
「それで、この戦いは誰かに勝ち目がありそうなの?」
「向かって右側の細身で色白な巻き髪の清楚系女子かな?」
「おぉ、いかにも男が好きそうな、守ってあげたくなるようなタイプの女ね」
「あの子が夫の子供を妊娠しているんですって」
「OH MY GOD!」
真顔で悦子が呟いた。
「愛人が夫の子供を妊娠だなんて、神もへったくれもありゃしないって感じです」
「それで、也耶子には子供がいるの?」
「妊活中だったので、まだ……」
「ふぅん、正妻は子なしかぁ。それじゃあ、もしかしたら後々面倒なことになりそうだね」
「やっぱりそうなりますかね?」
「彼女が子供を産めばね」
「ですよね」
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