(四)

2/5
125人が本棚に入れています
本棚に追加
/283ページ
「その愛人を三人も囲っていた大馬鹿野郎は、私の夫です」 「えっ? と、いうことは、まさか也耶子はこの葬儀告別式の……」  この事実を知らなかった彼女には何の罪もない。 「一応、喪主でございます」 「あちゃあ、偶然とはいえ悪いところに遭遇しちゃったわね。でも、也耶子らしいか」  学生時代、也耶子は「ややこし屋の也耶子」と呼ばれる《こじらせ女子》だった。彼女が口を挟むこと、手を出すこと全てどこかで歯車が狂い、物事が順調に進まないのだ。  だから、也耶子に大役は任せられないというのが、演劇部では暗黙の了解になっていた。 「それで、この戦いは誰かに勝ち目がありそうなの?」 「向かって右側の細身で色白な巻き髪の清楚系女子かな?」 「おぉ、いかにも男が好きそうな、守ってあげたくなるようなタイプの女ね」 「あの子が夫の子供を妊娠しているんですって」 「OH MY GOD!」  真顔で悦子が呟いた。 「愛人が夫の子供を妊娠だなんて、神もへったくれもありゃしないって感じです」 「それで、也耶子には子供がいるの?」 「妊活中だったので、まだ……」 「ふぅん、正妻は子なしかぁ。それじゃあ、もしかしたら後々面倒なことになりそうだね」 「やっぱりそうなりますかね?」 「彼女が子供を産めばね」 「ですよね」
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!