(三)

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 担当者との進行確認も、喪主の挨拶も全て也耶子が引き受けて、心安やらかに読経を聞いたり祈りを捧げたりすることなどできない状態にいる。 「喪主様。参列者様の返礼品と礼状が足りなくなりそうですが、あとどのくらい追加いたしましょうか?」 「え? 確か百名分をお願いしたんですよね? ええっと……」  事前の打ち合わせを全て姑に任せたら、金に糸目を付けず一番豪華なプランを選んでいた。一人息子の最期を盛大に見送りたいという母親の気持ちを思い、也耶子も反対はしなかった。  それに費用の全ては千栄子が払うと請け負ったのだ、私の懐が痛むわけではない。返礼品や礼状が不足しそうなら、追加すれば良いだけの話だ。 「それじゃあ、あと五十ほど用意していただけますか?」 「はい、かしこまりました。すぐに手配いたします」  こんな風に也耶子が葬儀告別式そっちのけでスケジュールに追われているのに、姑は相変わらず棺のそばから離れようとしない。  姑は知らない。息子が嘘を言って家を出たことを。郡山でなく大阪に行くと出かけたことを。しかも、郡山行は出張ではなく、有給休暇を取って一人で出かけていたのだ。  だが、也耶子はその真実を姑に伝えるつもりはなかった。息子が誰にも看取られず息を引き取ったなど、知りたいと思う親はいないと思っているからだ。
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