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「あれ? あのニットワンピの女って、もしかして……」
悦子が秘密の恋人一号を指さして叫んだ。
「あれはグラドルの一ノ瀬まぁやじゃない?」
「いちのせまぁや?」
聞き覚えのない名前に也耶子が小首をかしげる。
「その表情からすると、彼女のことは知らないようね。知らなくて当然、三流グラドルだもの」
「でも、悦子先輩は彼女をよく知っているようですね」
「ちょっとね」
意味ありげに悦子がにやりと笑い、スマホで一ノ瀬まぁやの姿を捉えた。
「修羅場ってこういうことを指すんでしょうね」
まるで他人事のように也耶子が呟くと、葬儀担当者が血相を変えて近づいてきた。
「も、喪主様。出棺のお時間が迫っております」
時計を見ると出棺まであと十分しかなかった。
「すみません、悦子先輩。もっと話したいことがあるのに時間がなくて」
「私なら時間があるわよ。この後ゆっくり、どう?」
「この後?」
「そう、この後にまた会いましょう」
意味ありげな言葉をかけた悦子をロビーに残し、也耶子は斎場の中へと戻った。
時間の関係で後に控えていたスケジュールは全て割愛し出棺となるのだが、千栄子や秘密の恋人たちが邪魔をして、なかなか棺を閉めることができずにいた。
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