(四)

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「あれ? あのニットワンピの女って、もしかして……」  悦子が秘密の恋人一号を指さして叫んだ。 「あれはグラドルの一ノ瀬まぁやじゃない?」 「いちのせまぁや?」  聞き覚えのない名前に也耶子が小首をかしげる。 「その表情からすると、彼女のことは知らないようね。知らなくて当然、三流グラドルだもの」 「でも、悦子先輩は彼女をよく知っているようですね」 「ちょっとね」  意味ありげに悦子がにやりと笑い、スマホで一ノ瀬まぁやの姿を捉えた。 「修羅場ってこういうことを指すんでしょうね」  まるで他人事のように也耶子が呟くと、葬儀担当者が血相を変えて近づいてきた。 「も、喪主様。出棺のお時間が迫っております」  時計を見ると出棺まであと十分しかなかった。 「すみません、悦子先輩。もっと話したいことがあるのに時間がなくて」 「私なら時間があるわよ。この後ゆっくり、どう?」 「この後?」 「そう、この後にまた会いましょう」  意味ありげな言葉をかけた悦子をロビーに残し、也耶子は斎場の中へと戻った。  時間の関係で後に控えていたスケジュールは全て割愛し出棺となるのだが、千栄子や秘密の恋人たちが邪魔をして、なかなか棺を閉めることができずにいた。
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