(五)

4/8
125人が本棚に入れています
本棚に追加
/283ページ
「私が司と結婚したと同時期に匡哉が事務所に入ったから、何となく彼と私は同期みたいな感覚なのよ」  普段の彼は全くオーラのない地味なタイプで、撮影現場に入った途端に強烈な個性が発揮されるそうだ。だからこそ、個性を殺して何の色にも染まらず、どんな役でも演じ切ってしまうのだという。  今では荒俣匡哉が出ている作品は間違いなく面白いと言われるほどの高評価を得て、仕事が切れることがないらしい。 「だから、さっきの秘密の恋人一号に詳しいんですね」 「あの子は業界ではちょっとした有名人よ。売れるためには何でもする、売名行為のまぁや。匡哉が同じドラマに出演した時、共演場面がないのに待ち伏せされて大変だったのよ」  芸能人として売れるためには汚い手も使う―― 恋人の急死で悲劇のヒロインになるはずだった一ノ瀬まぁやだが、自分以外に二人も別の恋人も現れた。しかも、亡くなった恋人には妻までいたのだ。 「さっき、彼女のマネージャーがスマホを構えていたけど、私と入れ違いに外に出て行ったわ。不倫とわかった時点で引き下がればよかったのに、あんなに大騒ぎして……ちゃんと打ち合わせしていなかったのかしら」  今の芸能界で不倫は大きなイメージダウンにつながり、世間にバレたらそれこそ命とりのようだ。 「私が代わりに証拠映像を残しておいたから、これで一ノ瀬まぁや対策は万全だわ」  事務所の大看板・荒俣匡哉にまたちょっかいを出した時に、この証拠映像を見せて追い払うと悦子は息巻いていた。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!