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(二)
管理栄養士として都内にある企業の社員食堂に勤めていた古木也耶子が、何かと世間を騒がせているインターネット広告会社に勤務している五歳年上の須藤逞と出会ったのは、異業種交流会という名の合コンパーティだった。
明るく話し上手で気さくな逞は、合コン中ずっと女性たちに囲まれていた。もちろん、彼の勤め先や見た目の良さもプラス材料だったのは間違いないだろう。
だが、見た目も十人並みで職業もやや地味目、特に社交的でもなければ愛想も良いわけではない也耶子は壁の花と化していた。
そんな二人が言葉を交わす機会があったのだから、偶然とは面白いものだった。
「ハンカチ、落としましたよ」
少々使い古された懐かしのフレーズに、也耶子は後ろを振り向いた。
「いえ、それは私の物ではありません」
爽やかオーラを醸し出すイケメンが白いハンカチ片手に笑顔を向けるが、残念ながら落とし主は也耶子ではなかった。
「あれ、おかしいな。あなたの手から落ちたように見えたので、てっきり……」
おかしいのは後姿に惹かれて声をかけた相手が、実はイマイチだったということだろう。
「落としたことに気づけば、きっと誰かが探しに来ますよ」
相手を慮って也耶子が立ち去ろうとした瞬間、男がいきなり自己紹介をしてきた。
「僕は須藤逞です。これも何かの縁ですから、ちょっとお話しませんか?」
周囲には数多輝く乙姫たちがいるというのに、須藤逞は何で私に縁があるなどと戯けたこと言い出すのだろうか?
そんな疑問で頭がいっぱいになったものの、いつの間にか也耶子はすっかり彼のペースに巻き込まれていた。
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